2016年1月15日金曜日

アクティブ(なものなんだよ)・ラーニング(は)



ここ数ヶ月(正確には高大接続システム改革会議「中間まとめ」が公になった平成27年9月15日以降)、「アクティブ・ラーニング」という言葉を学校現場で頻繁に耳するようになりました。「便利使い」の域を超えて、「濫用」とも言うべき状態になってきているようにも思えます。


「次の研究授業ではアクティブ・ラーニングを取り入れないといけないみたいで、普段はやらないんだけど、話し合いのグループワークをやってみようと思う」

「小中学校ではアクティブ・ラーニングが普及してきたみたいですね。でも、高校では内容が難しくなるし、覚えることも多いので、やっぱりアクティブ・ラーニングはやりにくいですよね。」


 実は、現在のところ、少なくとも初等中等教育全体を貫く文脈の中では、「アクティブ・ラーニング」という語の明確な官製の定義は存在しません。

 にもかかわらず、すでに「アクティブ・ラーニング」とは何であるかはもう皆が知っているかのような会話が交わされ、しかも、そのほとんどは何らかの授業の「カタチ」=手法を指す語として使われているようです。

 私たちは、「アクティブ・ラーニング」を、「学習はアクティブなものである」という「考え方」として捉えるべきであり、単なる手法と捉えることには大きな問題があると考えています。


 様々な場所で引用される次の定義は、大学教育改革の文脈で出てきたものです。

教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。
(「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」「用語集」平成24828日 中央教育審議会)

 この段階では、大学改革に関する数ある「用語」の一つに過ぎなかったわけですが、これだけをストレートに読めば、確かに「アクティブ・ラーニング」=「手法」だと読み取ることも可能でしょう。

 
しかし、高大接続システム改革会議「中間まとめ」では、「アクティブ・ラーニング」という語は、キーワードとして慎重に、丁寧に扱われています。

小中学校において実践が積み重ねられてきたグループ活動や探究的な学習等の学習・指導方法の工夫の延長上に、受け身の教育だけではなく課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)の視点からの学習・指導方法の抜本的充実を図るなど、学習・指導方法の改善を進めることが必要である。
(高大接続システム改革会議「中間まとめ」平成27年9月15日)

 
2つのことが読み取れると思います。

1)アクティブ・ラーニングは「視点」(見方・考え方)であること。アクティブ・ラーニングが手法だとすると、前後の意味が通らなくなる文章です。

2)小中学校において行われているグループ活動や探究的な学習等は十分なアクティブ・ラーニングではないということ(実際は立派なアクティブ・ラーニングをされている小中学校も多いと思いますが、少なくとも会議のメンバーは不十分だと考えている)。小中学校で行われていることをそのまま高校に転用すればいいなら、そう書くはずです。この文章は、小中学校におけるグループ活動等は手法であり、その手法を生かして高校では「アクティブ・ラーニングの視点からの学習・指導方法の抜本的充実」が図られるべきだ、と述べているのです。


 「中間まとめ」におけるアクティブ・ラーニングの位置付けについては、改めてこの場で丁寧に分析したいと思いますが、今後は、小学校・中学校におけるアクティブ・ラーニングについて、文部科学省がある程度明確な定義を打ち出してくることも予想されます。注目していきたいと思います。

 「アクティブ・ラーニング」を一つの手法にすぎない、と片付けてしまうことは簡単です。しかしそれでは「学びとは何か」という問題に光を当てるせっかくの機会を失ってしまいます。

アクティブ・ラーニングという言葉を、見たり聞いたりしたとき、「アクティブなものなんだよ、ラーニングは」と置き換えることから始めませんか。そして、それを最大限有効に実現できる方法は何だろうか、と考えてみませんか。

2 件のコメント:

  1. 別の項目で、

    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1353440.htm

    これについても、触れていただければ幸いです。

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    1. 高瀬さま
      ありがとうございます。下村大臣の諮問ですね。こちらも非常に重要な文書ですので、必ず近いうちに触れたいと思います。

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